ただ、君の隣にいたいだけ
亮輔さんは私の問いかけに答えてくれることはなかった。ただ、掴まれていた手をギュッと壁に押し付けられて、首筋には彼の唇が触れた。


それが何かわからないほど経験がないわけではない。彼氏もいたし、付けられたこともあった。所有物のシルシ。


唇が離れた瞬間、逃げ出すように黙って出て行く彼の足音がして急いでマスクを外したけれど遅かった。もう、亮輔さんは出て行った後。



「・・・なんで、こんなこと・・・するのよ」



彼が触れた場所に触れてズルズルと身体はその場に崩れ落ちる。どうしてそんなこと言うの?気持ちに応えられないのにどうしてそんな独占欲を露わにするの?



自分のことを好きだと言った人間が他の人と話をするのが気に入らないだけ?こんな風に曖昧でだけど確実に私の心を捉えて離さない行為がたまらなく切ないのに、嬉しくて仕方が無い自分もいる。


バカだな、これが惚れたものの負けってことなんだろうな。



「亮輔さんの、バカ」



誰もいない場所でそっと呟いた言葉は愛おしくて好きだという思いと掴めない彼の気持ちに左右されていることを含んだ私の気持ちだった。
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