ただ、君の隣にいたいだけ
赤く色づいたシルシはあっという間に消えてしまい、気がつけばもう7月の半ば。亮輔さんはあの日から更によそよそしくなって指導すらも私だけは愛梨さんにとお願いしたらしい。



「やっぱり女の子の身体を指導とはいえ、触るのには気を遣うから」



愛梨さんから聞いた亮輔さんの言葉。それは正論に聞こえるけれどきっと真実ではない。でも、本番が迫ってきているのにこれ以上他のことに気を取られている場合じゃない。


だからあの日のことも全て何もかもなかったように毎日、練習に励んでいた。



本番は8月の第一土曜日と日曜日の2日間。しかも、日曜日は夜に花火も上がるナイト営業もあるのでかなりの人出が見込まれる。


まだまだ全然出来てはいないものの最初に比べて少しずつ形にはなってきたかも。褒めてくれる言葉もチラホラ上がってくるようになってきた。


「カナッペ、なかなか足が上がってきたな」



私を褒めてくれた人は音響担当の萩原さん。萩原さんはアクターではないけれど音響のベテランさんで一人で何人もの声を担当する強者。


初めて聞いたときは驚いた。そこにいるのは萩原さん一人なのにまるで何人もの人間がいるような。



「最初は戸惑ったよ。一人で何人もの別人の役なんて出来るかって。でも、やらなきゃって思いながらやってたらそのうち楽しくなってきたんだよな」
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