ただ、君の隣にいたいだけ
「お父さんの仕事をちゃんと見せる絶好のチャンスだからな。まあ今はわからないだろうし、わかるようになっても本当のことは言うつもりないけれどさ」



「えっ?本当のこと言わないんですか?だって、すごく誇れる仕事ですよ。私、萩原さんのこと本当に尊敬してます」



「カナッペ。子供たちから見たら演者が違ってもマスクを被っていたらみんな本物なんだよ。だから子供たちには絶対に知られてはいけない。俺はガキの頃にヒーローショーで嫌な思い出があってさ。まあ好奇心旺盛だったから悪かったんだけれど裏口からこっそりと覗いたらマスク脱いだ脂ギッシュなオッさんがタオルで汗拭いててさ。ガッカリしたな、あれは」



「そ、それは嫌な記憶ですね」



「だろ?なのにまさか自分がその仕事に就くなんて夢にも思わなかったけどな。でも、バイトから始めたとはいえ辞めたくなかったから本当に妻の両親には感謝してるよ。両立を許してくれてさ」



「いい人に巡り会えたんですね」



「ああ、そうだな」



微笑ましい萩原さんとの会話を思い出して今日の練習も頑張るぞと心の中で自分を奮い立たせる。
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