ただ、君の隣にいたいだけ
「ひじき、ひじきの混ぜご飯はいかがですか?」



日曜日のショッピングセンター。いつもより当然試食は多い。焼きたてのステーキやウィンナー。少し離れた場所ではヨーグルト。更には、お酒。そんな中、ポツンと浮いたひじき。


声に反応して立ち止まってくれるお客さんはいるけれどなかなか手には取ってくれない。



「美味しいですよ。いかがですか?」


「ひじき?!なんだ。若い子が売ってるからケーキとかかと思ったのに、ひじきなんていらねえ」



私だって好きでひじきの試食販売なんてしてないわよ。目の前を笑うカップルに引きつり笑顔で勧めるも当然素通り。


なんでこのラインナップの中にひじきなのよ。確かにひじきは美味しい。栄養満点だしね。でも、ステーキやウィンナーがあればひじきは選ばないでしょ。


ダメ、ダメ。弱音吐かない。
ペアネックレス買うんだから。



「いらっしゃいませーひじきの混ぜご飯はいかがですか??」



時間は全然過ぎてくれない。ヒーローショーは練習の時間も、本番も一瞬なのに。さっきから腕時計を見ては軽くため息。いつもは気にならないのに。


誰も知らない。たった一人、私はここでお金のために仕事をしている。知らなかった。ヒーローショーは仕事だし、お金を貰ってるけれどやりがいがあって得るものもたくさんある。それに楽しい。


でも、今は本当にただ、お金のためだけにただ働いている。誰にも見向きもされないものを手に取って、無理に笑顔を作って売り込んでいる。


好きなことを仕事に出来るってすごいことなんだ。だからたとえそんなにお金が稼げなくても気にならない。



逆に苦痛な仕事だと本当にお金がなければ働けない。でもこの仕事も日給で6000円。ヒーローショーとあまり変わらない。なら私はやっぱりヒーローショーがいい。
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