ただ、君の隣にいたいだけ
act 4 このままで、いてもいいか?
歌舞伎だと言われ、頭が全くついていかない私を横目に掴まれていた腕はいつしか、固く繋ぐ手に変わっていた。


嫌なら振り払ってくれてもいいけどなんて前置きされたけれど嫌なわけない。むしろ、嬉しい。


歌舞伎を見に行くとは言っていたけれどこの近辺にそんなところあったかな。電車に乗るからと言われ駅までの道を手を繋いで少しだけ早足で歩く。


空を見上げるとどんよりとした曇り空。傘、持ってないけど雨降らないかな。



「花菜ちゃん、歌舞伎見たことある?」



「ないです。正直、歌舞伎って聞いて今も少しどうしようかなと躊躇ってたりしてます。あまり興味がなくて」



駅のベンチに二人で座る。手は繋がれたまま。この間は明海がいたのに今日は二人っきり。電車はまだ後、5分ほどやってこない。せっかく誘ってくれたデート。


でも、やっぱりいざ行く場所が歌舞伎だと聞かされて正直ガッカリしている。だって、歌舞伎なんて本当に何の興味もないし、見たいとも思わない。


たまにテレビで歌舞伎をやっていたとしても絶対に見ない。すぐにチャンネルは変える。そのくらい無関心。だから行きたくないのが本音。


その本音を包み隠さず伝えたからさすがに亮輔さんはいい気はしないだろうと思ったけれどクスクスと笑っていた。
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