ただ、君の隣にいたいだけ
グイグイと引っ張られ、二人分のチケットを係の人に渡す亮輔さん。本当にもう強引。指定されたスクリーンの場所に移動する。平日の午後ということもあり、そんなに人はいない。


それに若い人もあまりいない。確かに映画館で歌舞伎を見に来るカップルなんてあまりいないよね。真ん中の列の一番端とその隣が私たちの指定席。亮輔さんは私を端に促して自分はその隣に座った。


何度か離されたけれど結局、気がつけば今日は一日中手を繋いでいるような気がする。亮輔さんの意図は分からないけれど単純にまた繋ぎ直してもらえることが嬉しかった。


「花菜ちゃん、実はね歌舞伎と戦隊モノのヒーローって深い繋がりがあるんだ。それをさ、花菜ちゃんに見て欲しかったというか、見て興味を持ってくれたらいいなと思ったんだ。またそれかって思われるだろうけどやっぱり俺は花菜ちゃんに俺の仕事を伝えたい。そして、一緒にやりたいんだ」


「・・・はい。私も亮輔さんの仕事、聞けば聞くほど興味湧いてきました。だから歌舞伎も楽しみますね」


ここに来るまでは全然楽しみでもなかった歌舞伎。本音を言えば実は今もまだそんなに楽しみじゃない。


だけどここまでして自分の仕事を伝えようとしてくれる亮輔さんの姿が眩しくてもっともっと亮輔さんが誇りだと感じるこのスーツアクターという仕事を知りたいと思う。


そして、亮輔さん自身のことももっともっと知りたい。気持ちも、私への気持ちもいつかは知ることが出来るのかな。
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