ただ、君の隣にいたいだけ
照明が消える。やっぱり上映前だというのに観客はまばら。ここに来る人は本当に心から歌舞伎を好きで観にきている人たちばかりなんだろうな。



今日の演目は『白浪五人男』
泥棒を主人公にした物語で5人の泥棒たちが出てくる話。最初はやっぱりつまらないなと思いながら見ていたけれど亮輔さんの言葉の意味が分かった瞬間、目が釘付けになった。



「・・・分かった?」



コテンと私の肩に頭を乗せて小さな声で亮輔さんが問いかける。大きく頷くとやっぱり花菜ちゃんを連れてきてよかったと言ってくれた。



「このまま最後まで観ると疲れる?疲れたらマッサージするから、このままで、いてもいいか?」



ずるい、こんな時だけそんな口調で言うなんて。やっぱり頷くしか出来ない。集中したいのに気になって見られないよ。


頭を置かれた肩が熱が集中するかのように熱い。でもきっと彼は後で私に質問するに決まってる。だから意識を逸らしてスクリーンを見よう。


スクリーンの中では5人の泥棒たちが満開の桜の中、お揃いの衣装で決めゼリフを一人ずつ言いながらポーズを決めている。そう、きっと亮輔さんはこれを見せたかったんだ。
< 65 / 231 >

この作品をシェア

pagetop