ただ、君の隣にいたいだけ
「楽しかったです。亮輔さん、見てるふりして寝てたでしょ!」


「バ、バレた?いやだって花菜ちゃんの肩、あったかくて気持ち良かったからさ」



102分もある歌舞伎。最初はちゃんと見ていたはずの亮輔さんはいつの間にか夢心地。私なんてドキドキしながらもちゃんと見たのに。


でも、暗い中でも少しだけ寝顔を見れて得した気分だったけど。お疲れだもんね。毎日、平日は練習なんだもん。



「あっ、亮輔さん。今日も練習あるんですよね?」


「雨だ。雨なら練習は中止なんだ。でも、かなり降ってきたな。来るときは降っていなかったのに」



映画館を出ようとしたら外はバケツをひっくり返したような大雨。確かに来るときからかなり曇ってはいたけれどこんなに降るなんて予想外。


どうしよう、傘持ってない。ここから最寄り駅までは10分くらい歩かなくちゃいけないのに。でも、走るしかないよね。それに少しはマシになるかもしれないし。


「亮輔さん、走りましょう」



「・・・花菜ちゃん、少し移動はしなくちゃいけないけれど駅よりは近いし、シャワーもあるとこがあるんだけどそこ、行かないか?」



「えっ?」



「っていうか、選択肢ない。悪いけど黙って着いて来て」



躊躇う私の手を引いて大雨の中を走り出す。シャワーのあるところ、少し走ったらネオン街。まさか、亮輔さんはそこに行こうとしてるの?


そんなの、無理。いくら好きだと気づいたとしてもさすがにそれは無理。でも、私が口を開いても大雨の音に消されてしまう。


掴まれた手を離して嫌われたりもしたくない。諦めて私はただ彼に着いていくことにした。
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