ただ、君の隣にいたいだけ
亮輔さんの部屋は階段を上って一番奥の場所だった。勉強机にベッド、それから小さなテーブルにテレビと至ってシンプルな部屋。


私の部屋とは大違い。綺麗好きなのかな。荷物が少ない。テーブルの前に座る亮輔さんの向かいにそっと腰を下ろした。



「ごめんな、母さんが余計なことばかり言ってさ」



「あの、本当なんですか?お父さんが追い出したって」



「本当。俺の部屋はこうしてあるし、父さんがいないときとかはたまに帰ってきたりしてんだけどな」



「あの、聞いてもいいですか?その、亮輔さんの今までの話とか」



「花菜ちゃんからそんな風に聞いてくれるのって珍しいな。いいよ。そんなに聞いても面白い話でもないけど」



遠くを見ながらポツリポツリと話し始める。亮輔さんは大学在学中もずっとスーツアクターのアルバイトを続けていた。でも、就職と同時にキッパリとアルバイトを辞め、スーツアクターというものから決別した。


名残惜しい気持ちやまだ続けたい気持ちを持ちながらの就職。慣れない仕事、上からのプレッシャー、朝は早く、夜は遅い。自分の時間なんてない。


会社に行って帰るだけの日々。お金は貯まるけれど使うこともない。どんどんと痩せていく身体。


そして、彼は身体を壊した。
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