ただ、君の隣にいたいだけ
「続き、話すな。回復してすぐ仕事を辞めてまたアルバイトに戻った。それからすぐに上京して2年くらいアルバイトをしながらずっと養成所の募集にも応募した。でも難関でさ、ようやく26で養成所に入ることが出来たんだ」

「そう、なんですか」


「そう。でさ、基本的に養成所を出るとプロダクションにそのまま入るんだけど友達からファミリーパークが閉園するって聞いてどうしても最後にそこでヒーローショーに出たいって頼み込んだ。そして一年間、戻ることを許してもらったんだ。だからファミリーパークがなくなると俺は上京してヒーローを目指すってわけ」



来年には上京する。それは前にも聞いた。でも好きだと気づいてしまった今、その言葉は胸に突き刺さる。そうだった。この人は来年にはいなくなるんだ。


好きになっても仕方ないじゃない。それに夢を追うことが最優先。恋なんてきっとするわけない。



「父さんはせっかく入った仕事を辞めていい歳にもなって夢を追うってことにずっと反対だったんだ。就職して家庭を持てって耳にタコが出来るくらい言われたよ。最終的には家を出る形だったからあっさり一年だけまた家にいるなんて認められなかったんだろな。

まあ俺も実家に帰ればいいかなんて軽く考え過ぎてた。だからさ、帰ってくるなって言われて本気でどうしようかと思った。家を借りればいいんだろうけど上京してお金もなくなったし、アテも外れたところに花菜ちゃんのお母さんが話を持ちかけてくれたんだ」
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