ただ、君の隣にいたいだけ
明菜が仕事に行く間、店番を交代でしつつ明海の世話をしてくれないかって。おばさんがお母さんに亮輔さんの話をしたらお母さんから条件付きでいいならうちに居候しない?と言い出したらしい。


お姉ちゃんの育児ノイローゼを改善するにはまず働くことだと考えたお母さん。けれど保育所は空き待ち。しかもいつ空くかもわからない。


お店を畳んで明海の世話に徹しようと思っていたけれど躊躇していた。



「じゃあお母さんにとっても亮輔さんにとってもうちに来るっていうことはいいことだったんですね」



「うん。かなり助かってる。だからもし花菜ちゃんが本当に出て行けって言ったらどうしようかと内心焦ってた」



「そんなこと言うわけないじゃないですか。言いません。だって、私・・・亮輔さんの仕事にすごく興味持ってます。もっと聞きたい、もっと知りたい。そう思ってます」



「花菜ちゃん・・・」



「私、もっと近くで亮輔さんの仕事が見たい。ううん、携わりたいです。だから、亮輔さんの、スーツアクターの仕事を私に紹介してくれませんか?」



「本当、本当に?俺、それ本気にするよ?」



「はい、本気です」



多分、今亮輔さんに見せてきた中で一番の笑顔を見せてる気がする。好きになっても報われない。でも、だからと言ってこの気持ちを閉じ込めたりなんてしたくない。せっかく、あのジメジメとした空間から一歩踏み出したんだ。



スーツアクターに興味があるのだって本当。まあ運動オンチの私には出来る仕事じゃないって分かってる。だけど亮輔さんのそばにいたい。子どもと触れ合える仕事をもう一度目指したい。



そして、最後の日に伝えればいい。私の気持ち。せめて忘れられないように。たとえ、報われなくても。
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