ただ、君の隣にいたいだけ
「花菜ちゃん、花菜ちゃん、ちょっと待ってよ」



ただし、それとこれとは話が別。河島さんに再度期待してるとプレッシャーを与えられつつ後にした事務所。


今度は私が一切口を開かない。腹が立つから早足で先を急ぐ。その後ろを慌ててついてきて亮輔さんは声を掛けてくるけれど無視、無視。



「悪かったよ。最初から言わなくて」



本当に悪かったと思ってる?いきなり聞いてもないような大役を任されるなんて思ってもみなかったんだから。



「でも、最初に話して受けてもらえる自信がなかったから。いや、ごめん。ただ言いにくくて言えなかった。代わりなんて言い方したらせっかくやる気になってくれたのにそれを取り消されるんじゃないかって」



「・・・騙されました。だから、ごちそう食べさせてください」



スタスタと歩く私の機嫌をなんとか取ろうと話しかけてくる亮輔さんの声が段々と弱々しく感じ始めたから許してあげる。まあごちそうって言ってもどうせ牛丼だろうけど。



「何でも好きなもの頼んで」



やっぱりね。許してくれるならごちそうくらいしますと連れて来られた牛丼屋さん。ここはうどんもあるし、セットでもいいよなんて言いながらこっそりと所持金を確認してホッと一息ついている。


28歳の大人の男の人がする行動とは思えないけれど可愛く思えた。
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