ただ、君の隣にいたいだけ
「・・・ごめんな。黙ってて。本当は花菜ちゃんにすぐ即戦力になって欲しかったんだ」



注文を済ませて向かい合わせでテーブル席に座る。彼は申し訳なさそうに謝り、お茶に口をつけた。



「言ってくれたら良かったのに。って言いたいところですけど、きっといきなりそんな大役を任されても今日のようにすぐに快諾できなかったと思います。だから、また亮輔さんの強引さにやられて返って良かったです」



「ああっ、もうなんでいちいちそんな・・・だよ。何でもない」



途中の言葉が聞こえなくて聞き返したのに気にしないでと言われる。気になるから聞いたのに。口を軽く尖らしていると運ばれてきた牛丼。会話は一旦中断して温かいうちに食べることにした。



「美味いな。本当牛丼は神様だよ。安いし、美味いし、腹いっぱいになるし」



「でも・・・飽きないですか?」



「飽きない。むしろ毎日、牛丼でも大丈夫」



子どもみたいな笑顔を浮かべて牛丼を頬張る。毎日、牛丼なんて栄養偏るじゃない。こっちに戻ってきて何もしなかったけれどちょっとは家事も始めようかな。



そう思って今日の晩御飯は私が作ることにした。一人暮らしのときにたまたまハマった厚揚げと鶏肉の煮物。片栗粉でとろみをつけてご飯が進む、進む。


「この味、俺、かなり好き」



練習帰りの亮輔さんが私の作った煮物を美味しそうに食べてくれた。煮物以外はお母さんが作ったんだけどね。



でも、嬉しいな。好きな人がこんな風にあまり得意じゃない料理でも美味しいって食べてくれること。
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