オトナになるまで待たないで
居酒屋の店員さんが、部屋を覗きに来た。

声が大きかったのだろう。注意したいが、言葉が出ない様子だ。

みんな、静まり返ってオバサンを睨みつけている。



脳天気な歌が、静まり返った空間に流れる。


オバサンは自分の出方を待っていると、ようやく気づいた様子で顔を上げる。

みんなの視線に躊躇した様子だったが、絞り出すように言った。

「わ……私が悪かったです。どうぞ……申し訳なかったです……」



「仕切り直しましょう」

部長が言う。

「奥さんの侮辱による、坂下さんへの精神的苦痛も賠償金に加味して下さい」

「そうしましょう」


疲れた様子で、弁護士が言った。



奥さんは、うなだれたまま顔を上げることはなかった。
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