オトナになるまで待たないで
「あの爺さん、そうとう酔っ払ってたもんね」


私は軽く佐々木さんを睨んだ。

「佐々木さん…また呑んでますね…」

「アレっ!この人は芸能人!?」


誤魔化してる。

この店は、飲酒禁止だ。



佐々木さんは、登録情報によると48歳。

おにぎりの工場で働いていると言う。


毎週水曜日が休みらしい。

火曜日の夜にやってきて、水曜日をネットカフェで過ごして行く。

禁止されているのに、お酒の持ち込みを止めない。

ただ、酔っ払って何かするわけでもないから、時々チクリと言うだけに留めている。



「芸能人に会えるなんて、さすが都会だなあ」

「どこが都会ですか」

「都会だよお。俺っちの田舎なんて、コンビニ一つないんだから。子供ら、いっつも文句言ってんだから」



子供が2人いて、実家に預けて暮らしているらしい。

離婚したのか、うちと同じで死んだのか。

他人と思えない。



「坂下さん、お大事にして下さいヨ」

「佐々木さんも飲み過ぎないでよ」

「ハイ。分かりまシタ!」


水とヤニでドロドロになった灰皿を返却口に置く。

田野畑が露骨に嫌な顔をした。
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