オトナになるまで待たないで

気づくと、みんなアパートから離れて行った。

店長だけが、まだドアの前にいた。



「松井くん」

部長が呼んだ。

店長が私に近づいてきた。


「これ」

差し出した紙袋は、手土産のお菓子らしかった。


「持って帰って下さい」

「だけど…」

「私、甘い物嫌いなんです」


驚いた顔で私を見ている店長に、

「そこ、ゴミ捨て場ですよ」

と、アゴでしゃくってやった。

店長は、そちらへ歩き出した。


そして立ち止まると、衣類の束を持ち上げ、マジマジと見た。

「坂下…これ…」


私はさっさと鍵を開け、扉を閉めた。
< 324 / 472 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop