オトナになるまで待たないで
「そのまま、兄は戦死いたしました。
父は泣きはしませんが、何か…こう…ぼんやりした様子で。
ある日、庭を女の子がウロウロしているなぁと思って見ておりますと、
意を決したように、菊の花を一本手折ってしまった・・・
そこに折り悪く、父が通りがかったのです。
女の子は真っ青になって震えておりました。
私だって、青くなりましたよ。
すると父が静かに、
『貴方は、えらい。一番美しい花を選んだ』
こう申したのです。
女の子が謝りながら、花を返そうとすると
『私が貴方に上げたくて上げるのだから、持って行ってよろしい』
それが、父のショクザイだったのです」