オトナになるまで待たないで
お父さんの到着を待たず、お母さんは私の前で突然呼吸を止めた。



━━待って。待ってよ。お父さんが来るまで待って━━



死後処置をしてもらい、病室を泣きながら整理した。


引き出しから、私の年代が使うような、ピンクラメ入りのノートが出てきた。

開けてみると、古臭い乙女文字や素人くさい絵が、びっしりと書き込まれていた。


―私の心は 永遠に あなたのもの ずっと見守っています―


この言葉が、お父さんに向けられたものだと分かった。

こんなのもあった。



―可愛い可愛い 夏海ちゃん その広い心で 人を幸せにして―



ノートを床に投げつけた。

手が震え、呼吸が乱れた。



━━もう逝っちゃったの?━━


振り向くと、お父さんが静かに佇んでいた。

いつから、そこに居たのだろう。



お父さんはノートを拾い上げ、無造作に紙袋へ入れた。

< 53 / 472 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop