オトナになるまで待たないで
エレベーターに乗り込むと、3階で店長が乗り込んできた。
「お、お早うございます」
「おう」
2人しかいないエレベーターに、お風呂上がりの瑞々しい香りが充満する。
こんな奴の匂いなんか、嗅ぎたくないけどね…。
店長を真っ正面から見たのは、ひさびさかも。
店では怖くて、ついつい直視できない。
「気魂」と荒っぽい筆文字で書かれたTシャツから、太い腕が伸びている。
年齢不詳、職業不詳という感じだ。
「おい」
突然、呼びかけられる。
「は、はい?」
「泣いたろ。目が腫れてる」
そう言って、顔を覗き込んでくる。
慌てて、顔を逸らす。
「な…泣きませんよ!」
「顔見せろ」
「泣いてませんて!」
「顔!」
断固とした口調。
仕方なく、店長を見上げた。