涙色の空をキミに。
水に溶けた白。
今日は、なんだかやけに静かだ。
「…どうしたの?」
朝、登校して教室に入った途端、静かすぎる空気に異変を感じる。
とりあえず夏芽の近くに駆け寄って尋ねると、「理緒」と単語だけ返ってきた。
それで何となく察して、周りを見渡したけれど当の本人の渚沙も理緒もいない。
…なのに何でこんなに、張り詰めた雰囲気なわけ?
「…理緒と渚沙は?どこに行ったの?」
「今日、朝から理緒が機嫌悪かったらしくて、渚沙が登校してきた瞬間どこかに連行したみたい。」
興味なさそうに答える夏芽に胸がざわめく感覚がして、バレないように少しだけ顔をしかめた。
屋上は中学校は立ち入り禁止だし、繋がっている扉も行き方すらも知らないから大丈夫だと思うけど…、
一体何を渚沙にするつもりなんだろう…。
そこまで考えて、クラスの雰囲気が凍りついている理由がわかって納得する。
みんな嫌な予感はしているのに、止められる覚悟もターゲットになる勇気もないからここにいるしかできなくて、気まずいんだ。
…それは、私も一緒ってこと、か。
また、この感覚。
変えたいのに変えられない。
……昨日、琉空と結衣と話して白くなった心は、また塗りつぶされる。
自分の色は、ない。透明な水に溶けて失われた色のように。
教えてくれた夏芽に「ありがとう」だけ言って、自分の席へ戻った。
この場に持ち主がいない何度も倒れた渚沙の机を見る。
…私、渚沙の声を聞いたことがないな、何てふと思って、
何も出来ない、何も変わらないこの世界を遮るように耳を塞ぎながら、ぎゅっと目をつぶった。