涙色の空をキミに。
紫が崩れる瞬間。
あれから1週間が経って、ついに夏の匂いを連れてきた風が吹き込む教室で、筆箱に消しゴムを入れていると、目の前に誰かが立った気がして顔をあげる。
「夢空ちゃん、これ、この間借してくれたノート。ありがとね。」
衣替えをして白を基調とした半袖のセーラー服から伸ばした手で、ノートを手渡しながら微笑む渚沙がいた。
「あ、ありがとう。大丈夫?落書きとかなかった?」
「ふふ、なかったよ。すごい綺麗で助かっちゃった。ノート取れない日とかあったから。ありがとう。」
笑う渚沙に良かった、と私も自然に笑ってノートを受け取る。
…あれから、クラス全体が確かに変わった。
理緒の独走を黙認してた風潮もなくなって、平穏なクラスへ段々変わってきた感じ。
もう力関係やいじめもこのクラスには存在していないみたいだ。
…まあ、その理緒自体が最近休みがちではあるんだけど。
あの日から明らかに登校する日が減ってしまって、空席の机を見る回数も増えた。
…今日も欠席だし。
「夢空ー?どうしたの?」
ボーッとしてそんなことを思っていると前から振り向いた彩と目があって、首を傾げられる。
「ううん、理緒来ないなぁー…って。」
…やっぱ、来づらいのかな。
答えると、彩は「ああ。」と納得する声を出して、体を横に向けた。
「理緒軍団も家に行ったみたいだけどインターホンで追い返されたらしいよ。…門前払いって感じだったみたい。」
「ふうん、理緒軍団も、理緒来なくて寂しいだろうね。」
理緒軍団は確かに少し理緒を怖がっている部分もあるかもしれないけれど、
本気で理緒と仲良くなりたい、友達でいたいって思っている気がするんだよね。
権力とかお金持ちとか、そんなの関係なしに。
「理緒ちゃんも、急な変化に少し混乱しちゃってるのかもね。落ち着くまで待つしかないかも。」
「もー!渚沙は優しすぎ!可愛いぞこの野郎!!」
「彩ちゃん、それは褒めてくれてるの?」
彩に、おっとりと話す渚沙を見ながら私も笑う。
…渚沙の言う通り、今は理緒の気持ちが整理されるまで待つしかないかな。