LOVE・ホテルに行こう。
「どういう事?」


「美久と別れて凄く落ち込んでたんだ俺。
その時にハッパ掛けたのがその人。
美久との別れ話を話したら、馬鹿かって、それでも男かって、言いたい放題言われちゃって。
もうズバズバ、俺の痛いところ付くわけ。
でも、嫌じゃなかったんだ。俺の事わかってくれてるって弱い所や情けない所も全部知っててくれてるって。近くに居たから気付かなかったけどいいやつだなって。転勤決まって悩んでた時も情けないって、私が付いていくから安心しなさいって言われちゃって。逆プロポーズみたいな感じでさ、男の俺の立場なし。…でも楽なんだ彼女と居ると。無理に格好付けなくても俺の情けない所知ってるし。…まぁ~、そんなこんなで結婚に至った訳」


照れながら話す春人を見て
私と付き合ってた頃の春人はもう居ないんだなとちょっぴりだけど寂しい感じがした。


「だったら感謝してもらわないとね。私、キューピッドだから」


冗談を言って寂しさを打ち消した。


「だな。…美久の事は忘れないと思う。
…俺を惑わした小悪魔だから」


「はぁ~?何よそれっ。私だって忘れない。
私を振った最低男って」


冗談を言い合える事が嬉しかった。


もっと、春人を知れば良かった。
もっと、私を知ってもらえば良かった。
だけどそれが出来なかったから今の私達がいる。私達が進む道は悲しいけど違っていた。
それが解っただけでも良かったのかもしれない。


空になったコーヒーカップ。


「出ようか?」


春人の言葉でお店を出た。


「美久、ありがとうな。…俺の言い訳聞いてくれて。…最後に握手してくれる?」


手を差し出した春人の要望に私も手を出した。
握られた手が温かい。
春人の顔が近付き


「美久。お互い、幸せになろうな」


耳元で聞こえた春人の声。
微かに薫る懐かしい春人の匂い。


…トクン。


私の心が何かに気付いた。


それはとても切なくて。
私の心を締め付けた。






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