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1章
「...っあ...弥...っ」
「っ...美沙っ」
「......」
忘れ物をしたのを思い出して気が向いたからその忘れ物を取りにくればこれだ。
弥が浮気をしていたのを知らなかったわけじゃない。
それは友達から聞いたり弥の雰囲気から感じたものであって自分が直接それをみたわけではなかったから別れようとは思っていなかった。
でもこれは、決定的過ぎる。
こんな場面にでくわすならそのまま家に直帰すればよかったな。
これは修羅場というやつになるんだろうか。
めんどうくさいな。
思ったより冷静にそんなことを考えていた。
浮気されたのが悲しいとかショックとかそんなことはなくて、ただ怒りしかなかった。
自分がほかの女に負けた。
好きでもないのに付き合ってる男に「こいつなら浮気しても大丈夫」だと思われている。
それが腹立たしくて仕方なかった。
ん、よし。
はぁ、と息をついてからばんっ!と勢いよく寝室のドアを開けた。
「えっ...玲...!?なんで、」
「レポートの資料忘れたの思い出したから取りに来たんだよ。いいところだったのに邪魔してごめんね」
嫌味ったらしく言えば弥は「違う」とか「説明させてくれ」とか言い訳を始めた。
潔く浮気を認めるくらいの度胸があれば少しは考えてやろうと思っていたけど、これはないな。
「弥くん!彼女いないっていってたじゃない!!」
言い訳をする惨めな弥に詰め寄る女の子。
制服って...高校生に手出したのか。
呆れてため息をつけば女の子に弁解していた弥はあせってまた私に言い訳を始めた。
「玲、ちゃんと説明するから!!」
「説明なんていらない。前から浮気してたのは知ってるし今回で最後になるとも思えない。そもそも私は弥のこと好きだったわけじゃないし別れるにはちょうどいいと思うよ。じゃあね」
1年前に弥からもらった指輪をその場に落として踵を返す。
呼び止めてくる弥の声が聞こえるがそれを無視して弥の家を出た。