短編集‥*.°
波打ち際から徐々に歩くと、
一気に深まった海の中。
ここは、波打ち際から浅瀬が
二メートルほどしか続かない。
平泳ぎ。顔をあげて、足を左右に
滑らかに動かして、沖へと進んでいく。
水深五メートル。この辺で良いかな。
空気を思い切り吸い込む。
小さい頃からこの海を泳いでいたから、
頑張れば息は七分以上続く。
ある意味、特技かもね。
海に顔を浸して、
ゆっくりと目を開ける。
ちょっと目にしみて、
でも時間が経てば馴染んでくる。
海に潜る。
海の中は青くて、朝日が乱反射して。
泳ぐ。海の中を翔る。
遠く続く海の中。
息は七分以上続くといっても、
十分は無理だから、急がなきゃ。
高校をサボって、お母さんは怒るかな?
まあ、良いや。
君に会いに行ったと言えば、
きっと許されるだろうから。
泳ぐ。翔る。海の中をどこまでも。
そして、見つける。
ぼやけた視界の端に映るのは…
海底から大きく突起した岩。
そうだ。…ここだ。
その岩へと近づく。
そう。この場所だよね。
今でも鮮明に覚えてる。
ここが、君の消えた場所。
…君の、死んだ場所。
会いに来たよ…海音(シオン)。
一年前に戻って、もう一度、
会いに来たよ。
…お願いだから。
姿を見せて。声を聞かせて。
もう一度、会いたい。
伝えたいことがあるの──…。