短編集‥*.°
──海面で泣いているところを
近所のおばあちゃんに見つかって、
私は家に帰された。
お母さんが私を見て、涙を浮かべた。
「風海…っ」
何も言わず自分の部屋に戻り、ベッドに
音を立てて仰向けに寝転がった。
右腕で両目を覆う。
思い出すのは、あの日のことだった。
泳いで、翔る。君のとなり、海の中を。
君はあの岩に近づく。
私はそれを、
少し離れたところから見ていた。
そして──。
枯れたはずの涙が、また溢れてくる。
右腕で、ギュッと目を
押さえることしか、できなかった。
鮮明に覚えているよ。
君が海底に潜って行って、
足をつけたそこ。
石がぐらりと傾いて、右足を挟んで、
そこへ君をつなげた。
私は大急ぎで潜った。
最初に手を引っ張った。
君が『痛い』と訴えかけたから、
引っ張るのをやめて、さらに深く潜って
石をどけようとして…。
大きな波がやってきたようで、私は
流されて、君から離れていって。
波に抗おうとしても、できなかった。
海面に顔を出した。息を吸った。
私だけ。