短編集‥*.°
緩やかな坂道を、彼女はゆっくりと登っていく。
月光を受けながら、学生鞄を右手に抱え、 優しく揺れる髪を左手で少し触れる。
その仕草の可愛らしさは花のようでもあり、子犬のようで無邪気である。
華奢な白い足は、真っ直ぐに坂道を登る。
爽やかな風に背を押され、ゆっくりと。
__しかし、騙されてはならない。
彼女は天使のような純白の見た目を持つ、冷酷で非情な悪魔なのだから。
五年前、小学六年生の頃、両親を殺した。
それが元となり、彼女は殺人の楽しさに気付いてしまう。
卒業文集、将来の夢に『殺人者』と書いたほどだ。
しかしただの子供の戯言だろうと、大人たちは一声注意したのみで彼女を許す。
このことがきっかけで、彼女は殺人を犯しても怒られない、という間違った知恵がついた。
彼女は歩いてゆく。
艶かしい白い頬を薔薇色に染めながら。
まだ興奮が残っているようだ。
あのことを思い出すと、胸が明るく照らされる。
二週間前、親友を殺した。あっという間だったという。