短編集‥*.°
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「…と、つまり、
因数を分解するには…」
薄暗がりの中で、
数学の担任の声が聞こえる。
どれだけ寝てたんだろう。
そっと顔をあげた。
代わり映えしない教室。
壁にかけられた時計は、
授業が始まってから二十分ほどしか
進んでいなかった。
…不意に、「ギャハハ」と。
教室の隅から下品な笑い声が立った。
みんなは普通に過ごしている。
私は、そちらに目を向けた。
…ナツの、笑い声だった。
ナツの前の女子も、
ケラケラ大口を開けて笑っている。
女子の髪は、金色。
その瞬間だった。
ナツは、私とは
違う世界に行ったんだって。
理屈じゃないけど、理解した。
訳もわからないのに。
…なんだ、
そういうことかって感じた。
多分、ナツは変わっていない。
きっと、私のいる場所とは違う
別の世界にいるんだって。
──思った。
数学の準備をして、
ノートをパラパラと開く。
ふと、窓の外に視線を投げると、
雲の隙間から、一瞬、青が覗いた。
本当に、一瞬しか見えなかったけど、
その青は、深く深く、澄んでいた。