短編集‥*.°


◇◆◇


「…と、つまり、
因数を分解するには…」


薄暗がりの中で、
数学の担任の声が聞こえる。


どれだけ寝てたんだろう。


そっと顔をあげた。


代わり映えしない教室。


壁にかけられた時計は、
授業が始まってから二十分ほどしか
進んでいなかった。


…不意に、「ギャハハ」と。


教室の隅から下品な笑い声が立った。


みんなは普通に過ごしている。


私は、そちらに目を向けた。


…ナツの、笑い声だった。


ナツの前の女子も、
ケラケラ大口を開けて笑っている。


女子の髪は、金色。





その瞬間だった。





ナツは、私とは
違う世界に行ったんだって。


理屈じゃないけど、理解した。


訳もわからないのに。


…なんだ、
そういうことかって感じた。


多分、ナツは変わっていない。


きっと、私のいる場所とは違う
別の世界にいるんだって。


──思った。


数学の準備をして、
ノートをパラパラと開く。


ふと、窓の外に視線を投げると、
雲の隙間から、一瞬、青が覗いた。


本当に、一瞬しか見えなかったけど、
その青は、深く深く、澄んでいた。


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