短編集‥*.°
(……あ、桜が咲いてる)
ふと顔を上げれば、私の頰に薄桃色の小さな小さな花びらが舞い落ちた。
生まれてから十八回目に迎えた春、初めて私の視界を染めた桜。優雅に舞って、静かに、重力に抗うこともせず落ちていくのみ。
それの様子はまさに、“儚い”という表現が当てはまっていた。
(……あいつは今も変わらず、元気にしているのだろうか)
散歩がてらにやってきた、人気のない公園の端のベンチに座り、ぼんやりと私を覆う桜を見上げる。暖かな小春日和。
春休みはずっと引きこもっていたから、まさか桜が咲いていたなんて、思いもよらなかった。
たまに暑いとも思える太陽の光を、桜の大樹は優しく遮っている。
日本人は、
本当に儚いものが好きだと思う。
唐突にとりとめのない言葉が脳裏に浮かんだ。
春なら桜、夏なら夕立、秋なら落葉、冬なら雪。景色から感じる儚さを唄にしてきた彼らの血を、私もちゃっかりと受け継いでいる。
だって、桜を美しいと思うし、夕立の短さにはじわりと何かを感じる。紅葉が落ちる様を見て楽しめるし、雪が織りなす銀世界には感動を受ける。
他に儚いものといえば……悲恋とか。私たちはこぞって、恋愛話のバッドエンドに涙を流す人種だと思える。これは私の偏見でしかないけれど。
携帯小説なんかは、悲恋ものに人気が集まっている。昔の大文学家たちもこぞって悲恋小説を書いているし、映画なんかも悲恋が多い。
叶わない恋や、悲しい結末を迎える恋愛に人々が心惹かれるのは、いったい何故なのだろう。