短編集‥*.°
「アタシね、あれからしばらくして、
人生 捨てたのよ」
マキはそう言って、
「アハハッ」と屈託無く笑い狂った。
僕はジッとマキの瞳を見据えた。
なんでか。
…人生を捨てた、そう言う割にはマキは
とても幸せそうに見えたから――…。
「…あれ。タケルじゃない?」
フラフラと酔っ払って、
歌舞伎町を彷徨っていた。
そんな時にいきなり声をかけられて、
いつもより過剰反応してしまった。
なんで僕の名前を知ってる?
声をかけてきたのは、
真っ黒な長い艶めかしい髪、
真っ白な肌…。
見た事も無い、美しい女だった。
…誰だ?呂律の回らない口で、
名前を問う。
「お前…誰だよ…」
「やだ、覚えてない?
…あ、こんな見た目だからか。
アタシ、水商売やってるんだ」
答えになってない、
僕は名前を聞いたんだよな。
煌びやかな
眩しいネオンを避けるように、
女は裏路地に僕を誘う。
「ね、ほらアタシ。マキよ、マキ」
裏路地に入った途端に、
その女に、手をぎゅっと掴まれた。
…その手は、サラサラだった。