私と君の海
私と君の海
 薄く延びるダークグレーな空の下、私はそれを決行する。

 待ち合わせ時間の午前2時30分、海岸沿いの車道から一台の軽トラが逸れ、私の居る海の家の前で止まった。

「待たせたかなぁ」

 車のドアを閉めて、彼は聞いた。

 私は腕時計を見て確認する。

「ううん。時間ぴったりだよ」

 彼は私と向かい合うように長椅子に座ると、それまでの爽やかな笑みを消して、私に尋ねた。


「それで。 話って何だい」

 
 私は予てから胸の内に隠していた思いを、彼に告白した。

「もう、貴方にはついていけないわ。別れましょ」

 いきなり過ぎた、かしら。

 彼はしばらくの間、私から顔をそむけ、よせかえしを繰り返す海を見つめていた。




 ――いや、睨んでいたのだろうか。


 その横顔からは、彼の本音を窺い知ることはできなかった。









 やがて、私に向き直って、彼は言った。


「それは、俺の趣味についていけない、ということなのか。

 それとも、俺の価値観が理解できないっていうことかい。
 ……まぁ、いずれにしても、きっとチカは
俺をもう愛せないことには変わりないんだろうな」




 わかってくれたのかな。


 私は頭を下げた。


「ごめんなさい」


「いいよ。落ち度は君を幸せにしきれなかった俺にあるんだから」

 顔を上げると、苦笑う彼の姿があった。

 果たして、それは本音の表れなのか。それとも、仮面の笑みなのか……。


「本当に、ごめんなさい」

 今の私には、わからない。


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