願い事叶えます
そこだけは魔女は自信を持って言っていた
ケンは自分の服の袖を握っている魔女の手を離し、握った
魔女の手は冷たいのだと思ってた
だけど
本当は温かくて、柔らかくて、頼りない
「わかった」
ケンが頷くと、魔女は心底ほっとした顔をした
「すみません…。じゃあ行きましょう」
そう言うと魔女はどこからか箒を取り出し乗った
「さあ行きますよ」
魔女は自分の後ろを指さし乗れ、と言っている
「え…?箒で…行くのか?」
ケンは戸惑いながら尋ねた
「当たり前です。さあさあ」
促されたのでケンは渋々箒にまたがった
また新しい経験をしてしまった
魔女の箒に乗るなんて…
箒はゆっくりと地面を離れていく
「ケンさん、つかまってください!」
ってどこに
考えるまでもなく魔女はその腰につかまれと言っている
「いや、でもよ」
ケンが躊躇してると魔女は首をかしげた
「バランス感覚に自信があるのなら別にいいですよ。
ただとばすんで。振り落とされないでくださいね」
魔女が言うや否や箒は風のような早さで進んでいった
ケンはさっきの躊躇も忘れ魔女の細い腰につかまった
初めはその高さと早さにびびっていたが、慣れてくると景色を楽しむ余裕が出てきた
いいな
素直にそう思った
彼女はいつもこんな景色を見ているのか
田舎の真上から見る景色は新鮮で心が踊った
が、そんなのもすぐに終わった
「降りますよ」
魔女がそう言うとほぼ垂直に箒は高度を下げた
というより最早落下だ
ケンは血の気が引くのを感じながらどんどん近づく、地面を見て思わず目をつぶった
覚悟していた衝撃はなく、箒は地面から30センチほどの所で浮き、止まっていた
ケンは大きく息を吐いた
「おれはもう箒なんか乗らねェぞ」
魔女に言ったつもりだったが魔女の返答はなかった
魔女はある人物を凝視していた
ケンは箒から飛び下りその人物に近づいた
恐らくこの人が願い事を唱えた人
40~50代の女性で何というか身なりがボロボロだった
髪の毛は乱れ、目の下の隈もひどい
エプロンは薄汚れ何年間かずっと使っている風に感じられた
彼女は地面に膝をつき、魔女を見ていた
「やっと…来たわね…。
人殺し」