カメカミ幸福論


「ねえ、あんたさ」

 すぐ耳元で声が聞こえたようだった。

「え!?」

 私は咄嗟にパッと横を見る。だって走ってるのだ。遅いかもしれないけれど、ここ最近ないくらいに懸命に。なのに何ですぐ近くで声が聞こえるのー・・・

 ぎょっとして、足がもつれた。

 私が走っているのと同じ速度で、長い髪の男が飛んでいたからだ。


「うわああああ!?」


 まだ公園の出口まで行き着かないままで、私は叫んで見事にすっ転ぶ。ザザッと膝や手首を擦りむいたけれど、それにかまってる暇などなかった。

 だって、目の前で男が浮いてるんだよ!

 ぷかぷかと!

「な、な、何・・・何っ!?」

 若干切れ気味で私は叫ぶ。あんた一体何なの~!?

 ふわりと、体重を感じさせない音を立てて彼は着地した。全身白色の大きめの布を巻いたような格好の、男だった。いやいやいや、ここは公平に、褒めるところは褒めねばならないか。変態かキチガイかしらないが、とにかく彼はやたらと美男子だった。

 パニクって混乱した頭でも、一瞬で他人の外見を観察する。そのクセは抜けなかったらしい。

 私の目の前に立つ男は、文句なしの美しい男だった。長い睫毛、ツンと先の尖った鼻。艶々でプルプルの唇。それらが実にバランスよく配置された卵型の顔。

 ただし、浮いていた。そこが異常。


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