カメカミ幸福論
「小暮が庇ってくれたのは嬉しかったけど、もう私の世話焼かなくていいよ?倉井がいった事は口は悪いけれど、他の人も実はそう思ってるって多いと思うし。だから小暮はさ、倉井と仲直りしなさいよ」
私のことは放っておいてくれていいからさ、そう続けて、私は小暮を見上げる。大体将来の見込みもないお局呼ばわりされている私の世話を焼くよりも他に、することなんか幾らでもあるでしょうが、そう思って。
駅前の明りに照らされて、少し疲れた感じの小暮は真面目な顔で私を見ている。うん?反応が全くないぞ?と私が痺れを切らし始めた頃に、ようやく大きなため息をついた。
「・・・ま、仕方ねーよな。俺だってついさっき確信したんだし」
あん?
小暮が零した言葉の意味がよく判らなくて首を傾げる。もしもーし?私が言ったこと、聞いてるのかいな、この男。
とにかく、お前の家までいくぞって小暮が私を促す。それは特に歓迎すべきことではないのだけれど、仕方なく私は自分の部屋に向かって歩き出す。
夏の夜、虫の鳴き声が小さく響く中を、同期の男とキラキラ輝く宙に浮く神、それから私で一緒に歩く。・・・どうしてこんな状態に?せっかく飲んだアルコールも今では勝手に蒸発してしまったようだった。
蒸し暑かったし、言葉もなかった。
いつも通り抜ける公園に差し掛かり他に人影がなくなったところで、小暮が歩きながら話し出した。
「俺さあ」
「うん」
「カメが気になってるってちゃんと判ったんだよね、今晩のことで」
「・・・はい?」
呆気に取られて、つい小暮をガン見する。歩きながらだったので首だけを無理に捻って痛かった。私の視線を受けて、やつはチラリと一瞬だけ私を見た。