カメカミ幸福論
な、何を言い出すのだこの男は!私はじんわりと額に汗を感じる。ちょっと待って、だってその言葉って、もしかして、まさか・・・。
後でダンが軽く笑った声を聞いた。その少しの笑い声は、その中に大量の喜びを含んでいるような明るい声だった。
小暮がのんびりと歩きながら前を向いたままで話す。今日の飲み会、ムカついてたけど、とにかく行ったんだって。今更不参加も態度悪いし、カメには予定があるって断られたしって。
「ちょっと残業になっちまって、それで遅れて。だけど行っても全然気分が盛り上がらねーの。男ばっかで、普段話すような奴らだっていうのもあるんだろうけど、それでなくて・・・カメがいないからだって思ったんだ」
「いやいや、気のせいだと思うわよ」
私は咄嗟にそう口を挟んだ。そんなことないだろう、君はきっと昼休みの流れにムカついていたから、飲み会そのものから興味を失っていたに違いないわよ~!そう心の中で呟いていたら、ダンが後から私の髪の毛をツンツンと引っ張っている。
「こらムツミ!この男が話しているのを邪魔するな!」
私はしかめっ面でダンをにらみつける。こいつもいたんだった!
勿論小暮はダンの存在など知らないから、ちょっと照れたように前を向いたままで話続けている。
「ずっと前からだったんだ。だけど、お前が何でか仕事に対してやる気をなくして凹んでしまった。それも何とかしたかったけどワケも話してくれないし、特に相談もない。俺は仲が良かったって思ってたけど、カメには頼りにされてねーんだなって・・・一度は諦めたんだ。自分の昇進もあってバタバタしたのもあるし」
「・・・」
私は言葉を失っていた―――――――――わけでは、ない。何とバカ神に口を両手で塞がれていたのだった。傍目にはダンの姿は見えないから、私は自分の手を口元でバタバタ動かして無言でいる女に見えたはずだ。