カメカミ幸福論
だけど、私の代わりに鍵を開けてくれながら小暮が先に声を出した。
「今はいらねーかな、返事。しんどそうだし、今まで待ったんだから同じだ。焦らなくていいから、真剣に考えてくれないか?ちょっとでもチャンスがあるなら・・・ってか、もしかしてちょっともない?」
パッと覗き込まれて、焦った私は思わず両手を振ってしまった。
「え?いや・・・ないわけじゃ・・・」
急がないと言ったすぐあとに返答を求めるとは!やっぱり営業なんだな、そんなことを考えながら、振ってしまった両手を急いで回収する。
それを見て、小暮が微笑んだ。・・・・あ、しまった~、見られてる・・・。
「ならいいや。ゆっくり考えて。とにかく俺は帰る。何か、色々驚かせたみたいで悪かったな」
「―――――――あ、ええと。はい。あの・・・今日は、ありがとう・・・」
奢ってくれて。心の中でそう付け加えると、ダンがまた髪の毛をぐいぐい引っ張った。
「帰すのか、ムツミ!?ダメだ、この男を帰してはいけないんだって~!!」
何としても無視してやる。
私はそう決意して、ダンがぎゃあぎゃあ後ろで喚くのを完全にスルーし、手をあげて遠ざかる小暮を見送った。それからおもむろに、自分の部屋に入る。
「ムツミ!!」
きっとダンを振りかえって、私は渾身の力をこめてにらみ付けた。