カメカミ幸福論


「男に抱きつくためのだ」

「このこのこのセクハラ野郎~!」

「お前は別に男嫌いではないといっただろう」

「突き飛ばされて倒れこむのを喜ぶ人がいるかーっ!!」

 あまりにもダンが近くてクラクラする。それは、怒りの為ではなかった。

 強いて言えば、ダンの香りだ。若草のような清清しい、それでいて優しい香り。キラキラと細かい光の粒子に包まれたダンの体は、かなり私に接近していた。

 電車の中で抱きしめられた時の事を思い出して固まる。

 ち、近い。近いのよ~!

 顔を背けたいが、既に遅いくらいであることが判っていた。もうダンのやたらと綺麗な顔が、すぐそこまで来ていたからだった。

「離れてよ~!!」

 必死で叫ぶと、ヤツはするりと指を出して私の頬をなでた。

 ぶわっと体が熱くなったのに気がつく。ダンが触れたところから、じわじわと熱が全身に広がって私の中を侵食していく。それはピンク色の花びらが舞うようなイメージ付きの瞬間で、私はハッとして目を見開いた。

「・・・ムツミ」

 ダンが囁いた。それで十分なくらいに、私の側にいた。


「この世のものに不満なら――――――――――俺と一緒にくるか?」



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