カメカミ幸福論
は?
ダンは既に囁いてはいなかった。その涼やかな美声は、私の頭の中に直接響いてしっとりとした余韻を残す。何度か瞬きをして、現実を捕まえようと必死だった。・・・ちょっと待って。待って待って待って。今、何がどうなってるの。こいつは私に、何て言ったの―――――――――――・・・
「俺と天上世界へ来い。そうすれば、じっくりとあんたの幸せを満たすことが出来るだろう。格別不満もないが、満足もない。自分で掴もうとしない。ならここにいなくてもいいだろう。俺が、ムツミを幸せに出来るはずだ。こんな腹が立つ人間はいなだろうが、それも面白い」
ダンの綺麗な瞳が目の前にある。それをじっと見ていると、頭の芯から痺れてくるようだった。
・・・ああ、綺麗。こんな色は何て表現するんだろう―――――――――
「はい、と言え、ムツミ。それで全部が完了するんだ」
「・・・」
「ムツミ」
「・・・」
「俺と―――――――――」
・・・ああ、綺麗な人。柔らかい声、光に包まれる感覚。気持ちいいかも。・・・いいの、かも。だって別にここに何かがあるわけじゃあない。天上世界がどんな場所かは判らないけれど、今よりはいいのかも・・・・。
ぼんやりと私はそんなことを考えていた。
この綺麗な、格好いい男神と上の世界へ。それもまたいいのかもねー・・・。
いい香りに包まれていて、凄く幸せで満たされたような気持ちだった。こんなに穏やかな気持ちになるなんて、驚き。だって私はさっきまで凄く怒っていたのに。
・・・怒っていた。怒っていた・・・?そう、確かに腹を立てていた、わよね・・・。一体どうして―――――――