カメカミ幸福論
床に這い蹲ったままで恐る恐る神を振り返る。手に携帯を握り締めていたのは、お守りになるかもしれないと思っていたからだ。
ダンは綺麗な顔に皮肉な笑顔を浮かべて私を見下ろし、こう言った。
「口付けしとけば良かった。そうしたら、あんたも冷静にはならなかっただろうに」
――――――ぎゃあ。
瞬間、物凄く細部まで想像してしまった。
私は冷や汗をダラダラだしながら、何とか体勢を整える。とにかく心理的にも負けまくりな寝そべりからは起き上がった。
「・・・天上世界へは、行かないわよ」
「どうして?だってこの世に未練もないんだろう?」
「根本的に判ってないわ、ダンは。どれだけつまらなくても、これは私の人生なのよ。口出ししないで頂戴」
「俺を振って、あの男にするんだな?」
「何でそうなる!」
「ムツミが幸福を感じるためだ。俺か、奴か。どちらかを選ぶほうがいい」
だ、だ、だから、放っとけって――――――――――!私は唖然としすぎて言葉が出なかった。何だか、果てしない労働のようだ、この神を納得させるのは。そう思って眩暈すらした。どれだけ言葉を尽くしても、どれだけ怒鳴っても、この神は納得しそうもない・・・。