カメカミ幸福論
腰が抜けてしまって全身に力がまったくないが、あたしは服が土で汚れるのにも気にせずにずりずりと匍匐前進をしようと頑張る。
とにかく、ここから、逃げなければ!
どうして誰も居ないの。いつものこの時間なら帰宅で通る会社員はあたしだけってわけじゃないのに。それに、いつもいる小学生の集団も見当たらないし―――――――――
ひやりと私の全身を寒気が襲う。
・・・何か、空間がおかしい?
おかしいわよね。絶対おかしい。どうして人がいない?それによく考えたら他の物音もしない。風で緑が揺れる音は?鳥や虫の声?砂が服で擦れるジャリジャリいう音は?
誰もいない。音もしない。変な生き物と、私だけ・・・。
うわあああ、ヤダヤダヤダヤダ~っ!!
頭がくらくらする。恐怖に震えながら、それでも逃げようと頑張る私の横に立って、男が言った。
「よかった、見つけた」
―――――――見つけた?私は耳に引っかかったその単語に更に冷や汗を出す。何何、この男、私が最初から目的なの?嘘嘘、ちょっと冗談やめてよ!ほんと、勘弁・・・。
「・・・何かご用でショウカ」
反射的に顔を上げて男を見上げ、私は震える声で聞く。
何だろう。ちょっと本当にそういうのやめてよ、マジで怖いんだけど・・・。ぶるぶると大きな震えがくる。私は地面に這い蹲ったままで、目が離せない彼の顔を見上げている。