カメカミ幸福論
世の中は夏本番もいいとこだった。
6月に貰うボーナスは既に跡形もなく消え、セミが喧しく、クーラーはフル稼働しているにも係わらず団扇が欲しくなる。なのに膝から下はシンシンと冷えるという訳わからない状態だ。
私はパチパチとキーボードを叩きながら報告書を書きなおしていた。
今朝、事務所に入ってから美紀ちゃんの視線攻撃がうるさくてかなわない。その為に今ではくっきりと眉間に皺がよっているのが判っていた。
そもそも、隣で寝ていたダンを置いていこう作戦が失敗に終わり、無駄に早くきてしまった会社の下で小暮とバッタリ会ってしまったのが運のつきよ。
「あ、カメ~!」
自転車を片付けて従業員の入口にきたところで、社員カードを探してもたついてしまったのだ。そうしたら、後ろから聞き覚えのある爽やかな声が。
くるりと振り返った私の目には、真夏の強烈な日差しをもろともせずに駆け寄ってくる同期の姿が。・・・ただし、彼は既に「ただの」同期ではない。昨日この、このこのこの私にあろうことか告白なんて奇妙なことをした、世にも珍しい男なのだ。
「はよ」
白くてパリッとしたシャツにブルーの綺麗なネクタイ。夏用の砂色のスーツで爽やかに現れた小暮が、にこにこと笑っている。
疲れのつの字も見えなかった。
誠実そうで、明るい笑顔のサラリーマン。