カメカミ幸福論


 すると、男が笑った。

「そんなに怖がらなくてもいい。あんたを探していた。カメヤマムツミ、俺のパートナーだから、研修期間中、宜しく~」


 ――――――――――――はい?

 ちょっとちょっと、何言ってるの、この人。何か今すごく軽いノリでワケわかんないこと言われたような?

 私は眩暈を戦いながら、さっき聞いたばかりの言葉の意味を懸命に考えていた。パートナー?研修期間?空から降って来た男が?もう、止めてよ、ワケわかんないのはウチの兄貴だけで十分なのよ。変な男は既に身内に一人いるし、私の周囲にはこれ以上必要ないわよ。

 恐怖とパニックのあまり、思考がどんどんわき道に逸れていく。頭の中で思う存分最近会っていない自分の兄のことを罵ったあとで、また現実問題が戻ってきた。

 這い蹲ったままの私。手には砂の感触。側には正体不明の男。それで、言われた言葉が・・・。

「・・・無理」

 冗談でしょ?冗談よね。これはドッキリカメラかなんかなんでしょ?もう全国のお茶の間の皆さんにこの情けない格好を笑われてもいいから、解放して欲しい―――――――・・・

 人間の体がこんなに役立たずだとは私は知らなかった。緊張感とは程遠い生活をしていた私の神経は突然でヘビーなこの展開に耐えられなかったようだ。


 どうやら恐怖に負けたらしく、私の周りは急激に暗くなって―――――――――――そのまま、気を失ったらしかった。




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