カメカミ幸福論


「煩いわね。大体人間は神に触れないんじゃなかったっけ?なら無理でしょうが」

「俺は触れるの知ってるだろー」

「ダメよそんな一方的な。挨拶のキスだって、お互いがお互いにするものなんだから」

 つか、嫌だって言ってるでしょ。私はイライラとヤツをにらみつけて、脇をすり抜けようとした。チーズは諦めて、缶を捨ててから手を洗おうと思ったのだ。

 すると通り過ぎざま、パシっとダンに腕を掴まれた。

 へ?

 振り仰ぐと部屋の明りで逆光になったダンの顔。目を細めて、口角を上げている。

「したいんだってば、キスが」

「は?ちょ――――――・・・」

 くるんとひっくり返されて、私は仰向けに寝そべる形に。すぐに降りてきた、ダンの綺麗な顔。それからキラキラツヤツヤと光る髪。あ、眩しい・・・そう思う暇もなく、唇の上に柔らかい感触が。

 ・・・あ。


 うちゅ。音を立てて、ダンが私の唇を啄ばんだ。

 それはとても柔らかくて優しい感触で、やたらと安心する温度だった。抵抗する力や怒りなどの感情をあっさりと取り去られてしまって、私はただ呆然としていた。

 至近距離のダンの長い睫毛。私は見開いた目で、白くて明るいヤツの肌をじっと見詰めていた。

 唇に感じるのはかなり乏しい経験しかない私にでもハッキリと判る、ダンのプルプルの唇。これは紛れもなく―――――――――キスだ。


「うん、人間とのも悪くないな~」

 そう言いながらダンがするりと起き上がる。私はまだぽかーんとしたままでそれを床の上から見ていた。


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