カメカミ幸福論
私は玄関の片隅に荷物を置いて、暑いわね、と持参した団扇で風を送る。その時母親が、あら、と言った。
「ん?」
顔を見るとちょっとハッとしたような表情。何よ、何かついてる?
私は怪訝な顔を作って母親を見返した。
「お母さん?どうかした?」
「いえ・・・あの」
珍しく母親が口ごもっている。何だ、一体何があったというのだ。私はいよいよ不気味に思って体を引いた。
「睦、元気そうね。いつもとちょっと違うから・・・なんていうのか、ほら、体が軽そうっていうか」
「え、そう?特に変わらないと思うけど」
相変わらずここには出来たら来たくないわけだから、顔色だって冴えないだろうし。相変わらず運動不足だし。私は玄関間の壁にかけられた大きな鏡をマジマジと見る。・・・いつもの私よ、別に、変わってない。
「明るくなったっていうか・・・?まあいいわ、ほら、上がりなさいよ」
最後には母親は苦笑して、そう切り上げた。
「お前の母親も、前と違って明るいよな~」
ダンがそう言いながらふわふわと部屋の中へ入っていく。やつは既に勝手知ったる他人の家ばりに、自由に私の実家を浮遊していた。
私はちょっと不思議な気分のままで家へと入る。会ったばかりの母親の反応が解せなかったからだ。一体何なのよ?そう思っていた。