カメカミ幸福論


 判らないって気持ち悪いわ、って。

 ただし、この時の母親の微妙な言い方を、後で会ったうちの兄貴はもっとズバリと言い切ったのだった。

 相変わらず残業で忙しいらしい兄貴は、それでも盆休みはあったらしい。まあ外資系なので盆休みというか、分散した連休というわけだけれど。やつは先月よりは確実にまともな目をして(つまり疲れきってないってことで)私をじろじろと見た後、視線をそらしてからこう言ったのだ。

「何だお前、やたらと色気振りまいてるな。男でも出来たか?」

「え」

 私は驚きのあまり固まった。それと同時に同じ部屋のテーブルについていた父親が、新聞をカサカサさせる音が止まり、台所で母親が立てる包丁の音が止んだ。

「・・・え?」

 私は仰天したが為に見開いた瞳で兄貴を見詰める。

 相変わらずの音楽オタクらしい兄貴はそそくさとヘッドフォンを頭に装着しながら、こちらを見もせずにダラダラと言葉を流す。

「先月よりも明るい。それに、何だか色っぽい。つまり、男が出来たのかと思ったんだが」

 母親の顔が半分だけ、台所の仕切りから覗いた。そして、同じく父親の顔も半分だけが新聞のふちから。

 私はしばらく唖然として口を開けっ放しで固まってしまう。

 ・・・・・色・気ーっ!!!!?って、この私がかい!?

 嘘でしょ、一体私のどこから!?是非その場所を詳しく教えてくれ。つか、つーか、本当に本当なのバカ兄貴!?


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