カメカミ幸福論
だけど、あ、やっぱり何でもない、そう私が言いだす前に、おばあちゃんがゆっくりと言葉を出していた。
「睦ちゃん、難しく考えることなんてないのよ。物事は何でも案外簡単なものなんだから」
「え?」
皺だらけのおばあちゃんの顔。それを更に皺くちゃにして、おばあちゃんは笑う。
「一緒にいる相手には、自分を殺す必要がないってだけでいいと思うわ。我慢は続かないし、一緒に生活していればいい格好をつけることもない。ただでさえ、煩雑な色んなことがついてくるのが結婚生活でしょ。だから大事なのは、自分を殺さなくてもいい相手をみつけることだと思うわ」
ちょっと不思議な感覚だった。私は今まで結婚生活に対して夢や希望を持ったことなどなかったから、おばあちゃんのその言葉で救われた、みたいなことはない。だけど、それだけが相手への条件?そう思ったら、呆気に取られたのだ。
「え・・・。でも、相手を好きでなくてもいいの?」
「慣れるわよ。それに、好きだ嫌いだなんて感情をずっと持つのは疲れるわ」
祖母はそう言ってコロコロと笑う。
「出来たら好意はもっているのに越したことはないわね。だけど、自分が好きだと思っていた相手の性格や外見でさえ、それが憎らしくなったり嫌いになったりに変わることはいつでもあるの。それよりは、自分が自分でいられるということの方が大切じゃないかしら」
・・・おおー!私は団扇を持つ手を止める。