カメカミ幸福論
結局まだ居間で兄貴の隣に寝そべりながら雑誌の盗み読みをしていたダンを、目線だけで動かして祖父母の部屋へ連れて行ったのだ。
そして私はおばあちゃんと一緒に台所に戻った。お茶でも淹れるね、と言って。煩い母の壁になって貰う為に同行をお願いしたのだけれど、それはちゃんと成功した。
まだまだ聞き足りないって顔で無駄に周囲をうろうろする母親をスルーして、私はおばあちゃんとお茶を飲む。
おじいちゃんとダンは、何か判らない話をずっとしているようだった。おじいちゃんの小さい声だけが開け放したドアから廊下へ流れ出ていて、父は、おじいちゃんが独り言を言っている、と心配そうだった。
実家の夜は騒がしい。
テレビの音は途切れることがなく、台所で母が立てる音とか、他の誰かがドアを開け閉めする音なんかが絶えず聞こえてくる。
どこにでも、誰かの存在感があった。
私はお風呂から上がってまた缶ビールを飲んで、布団を用意してくれた元自分の部屋へと上がる。長い間祖父母の部屋にいたらしいダンも、ヒョイと現れてふわふわとついて来た。
「ねえ、おじいちゃんと何喋ってたの?」
私は行儀悪く階段を上がりながらビールを飲む。
ダンは背後霊宜しく私についてきながら、にやりと笑って言った。
「教えない」
・・・くそ、感じ悪いぜこいつ。私は正直に顔を顰める。
だけど、一緒に部屋に入って扇風機のスイッチを押しに屈んだ時、後でボソッとダンが呟くのが聞こえた。
「・・・後ろ髪引かれるって、こういうことを言うんだな~・・・」
は?