カメカミ幸福論
第4章 神、消失する
・小暮の笑顔
蝉時雨もマシになってきた8月の終わり、私は美紀ちゃんの声でハッと我に返った。
「亀山さーん、食堂行きましょう~!」
「え?あ、はいはい」
ずっとパソコン画面をにらみつけていて、水分の失った両目をしばたく。現在進行中の新企画に伴って、外部との連携に使うらしい予算編成で、最近はずっとパソコンと計算機と格闘している私だった。
数字とブルーライトが瞼の裏でダンスをしている。
ああ、疲れた・・・。
「やれやれ・・・。目の故障だけでなくて、腰痛もちにもなりそうよ」
うーんと椅子に座ったままで伸びをしていると、自席から迎えにきた美紀ちゃんが労るように優しく笑った。
「ほんと、この梅雨辺りから亀山さんが仕事にやる気出してくれて助かります!今回の計算はちょっと複雑で時間もかかりますよね・・・まだ出来るメンバーがいないから、亀山さんが頼りです」
そう、私が実に使えないお局を体現していた間、この会社の総務はこの出来る後輩、山本美紀ちゃん一人の肩にかかっていたのだった。彼女は私に仕事を振っては来ていたけれど、それはやはり当たり障りのない、締め切りまで時間があるようなものに限られていた。ところが今では、私がまともに仕事をするので彼女の負担は目に見えて減っているのだった。
それが判るから私は苦笑して、立ち上がる。自分がやらねば!とか、美紀ちゃんを助けよう!などと殊勝な心がけになったわけでは、残念ながら、ない。そうではなくて、私は突如消えてしまった男神であるダンの存在を頭から追い出すために、今まで以上に仕事にのめりこんでいたのだ。
ま、これも一種の自己防衛だ。