カメカミ幸福論
ランチも一人にはならないようにして。
帰りは自転車でDVD屋やコンビニに寄り、雑誌や映画を手に入れてから帰るようにして。
晩ご飯を一人で食べながら、別の世界へ没頭出来るように。
ヤツのことを考えずに済むようにしていた。やつの綺麗な顔が頭の中を通り過ぎるたび、まだ名前を呼んでしまうたび、一人の部屋が広いなんて思ってしまうたびに、私はヤツを罵って、ますます一人の世界へ没頭出来るように頑張る羽目になった。
「この夏は結局、一度も海に行かなかったな~」
会社の中の空調のきいた廊下を歩きながら、美紀ちゃんがそういう。確かに、清楚な外見とは違って中身はアクティブな彼女は、夏場は海へ潜りにいっていると聞いたことがあったな、私はそう思い出して、話を振った。
「ねえ、例の婚約者君とは旅行とかいかないの?」
そういえば、彼女に実は婚約者がいるというぶっ飛ぶことを聞いた割りには、私は個人的に砂嵐の中にいたので詳細を聞いていなかったのだった。
美紀ちゃんはふんわり微笑んで首を振る。
「行きませんねえ。彼とは大体、趣味が全然違うので」
「へえ」
「私は外へ出たいし、彼は中で寛ぎたいタイプ。同じ年なのにえらくオジサンみたいなんですよ~」
そう言って、ケラケラと笑う。