カメカミ幸福論


「別に好きな人が出来たらどうするの?」

 ちょっとばかり気になったことを聞いてみる。その場合はどうなるの?既にそのつもりのお父さん達の説得をするのだろうか、と思って。

 美紀ちゃんは食堂の看板で本日の定食を確認しながら、どうでも良さそうに言った。

「うーん・・・まあ、なさそうですけど・・・。解消、するんじゃないですか?今は、どっちもそのつもりでいますけどねえ。来年にはって親が盛り上がってるし」

「え、来年には美紀ちゃんたら結婚?」

 私はパッと隣を振り返った。つい声が大きくなってしまったらしい。順番待ちをしている時に話すにはあまりにもプライベートなことだったわ、そう思って慌てて口元を覆う。

 彼女も小声になって言った。

「多分そうなると思います。元々私も彼も恋愛体質ではないみたいだし、このまま進むんじゃないかな」

「え、え、じゃあ仕事は?」

 辞めちゃうの!?私にとってはそこが大事なところなのだ!うちの頼りになる後輩が、辞めてしまったら――――――――事務所、すんごい大変。

 すると美紀ちゃんはにやりと笑って首を振った。

「まさか。妊娠でもすれば話は違いますけど、結婚したからって何で仕事を辞めるんですか?私、亀山さんが心配だし、まだ当分見守らなきゃでしょ」

 私はほーっと胸を撫で下ろした。心臓に悪いったら、全く。

「ああ良かった。私のことはともかく、美紀ちゃんがいなくなるとうちの会社はかなりの損害よ」

 本心からそう言うと、彼女は嬉しそうに笑う。それから、やっと順番が回ってきた食券を買うために財布を開けた。


< 167 / 235 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop