カメカミ幸福論
「・・・み、美紀ちゃん?」
「勿論、化粧直しも込みですよ」
美紀ちゃんはその可憐な外見を著しく裏切る悪魔的笑みをみせて、悠々と自席へ戻っていく。
私は他の事務員が戻ってきたのにも気づかずに、叫びまくった。
「やーまーもーとぉぉぉ!!何てこと言うのよあんた~!!」
「おほほほほ」
「卑怯もの~っ!!」
「さあ、叫んでる暇があったら仕事してください、仕事」
「鬼~!」
「ホラホラ亀山さん」
唖然としてみる後輩達。そこには涙目のお局と、笑顔の先輩事務員の姿があったのだった。
畜生~!私はマシンガンのように電卓を叩きまくる。必死だった。
だって、そんなことされてみろ!会社内の独身男性を狙う女子社員を全て敵に回す上に、上司達からは好奇の目で見られる。その上小暮の出世を邪魔してしまうかもしれないのだ!社内恋愛は禁止ではないが、やはり大歓迎されるものでもない。
それになんというか、組み合わせが悪いのよ!
折角頑張ってここまで出世してきた小暮の将来を、私という「どうでもいい社員」が絡むことで台無しになるかもしれないのだ。それは、たとえ小暮本人が望んでも私としてはお勧めできるものではない!
結婚するとかならともかく、付き合う云々では―――――――――――――・・・
内緒内緒の出来事にしておきたい。
そんなわけで、私はまんまと出来る後輩である美紀ちゃんの策略にのってしまったのだった。それから文字通りに没頭して片付けた結果、定時前にはちゃんと終わらせることが出来、なんと化粧室へ強制連行されたので、化粧直しなんてものまでしてしまったのだった(美紀ちゃんは、自分の化粧ポーチを開けながら、また同じ脅しを使った。うぬぬ、卑怯なやつめ!)。